エピソード2 「はじめての税務調査」

(登場人物)
佐々木仁之介(白鳥県税事務所 主事)
石黒先輩(白鳥県税事務所 主任)
花庄申子(かしょうしんこ スナック「白猫」のママ)
国是元(こくぜいはじめ 税理士)

「料理飲食税という税金はさぁ、猫に鰹節の見張りをさせているようなものよ」
石黒先輩に連れられて、はじめての「特殊調査」です。
料理飲食税は、お客さんから特別徴収義務者である飲食店が税金分を預かり、都道府県に申告納税する税目で、特殊調査というのは、身分を秘して客としてターゲットの飲食店を利用して、後日の調査に必要な情報を得る内偵調査のことです。

「いらっしゃい。初めてのかたね。どなたのご紹介かしら」
スナック「白猫」は飲食店ビルの3階の奥にあり、一見(いちげん)客が入るような店ではありません。
「となりの店(廃業を確認済)に久しぶりに来たんだけど開いてなくてさ。帰るのもなんだから新規開拓というわけ」
「そうなの(笑)。その店だったら去年の暮れにやめちゃったの。私はママの申子です。お名刺を渡してもいいかしら」

この調査。自分たちはもとより他客の飲食内容やボトルの数など様々情報をゲットするのがミッションですが、ママの目の前で記録するわけにもいかず、とりあえずは自分の頭にインプットしなければなりません。しかも、お酒を飲みながら!!

飲みすぎたら仕事にならず、かといって飲まないのも怪しまれます。(内偵調査と見破られて、後日の調査で確認した伝票に「白鳥県税事務所様 ご来店」と書かれた職員もいます)

不慣れなので、メモをするために何度もトイレへ行かなければなりません。
何度目かの「入室」後、酔いのため手元がおぼつかなくなり、メモ帳が便器にダイブ!!

あわてて拾い上げて、メモの滲みを修復していると(汚)、ママの声が・・・

「あの人大丈夫かしら、だいぶ酔っているみたいね」 ばれることなく、はじめての特殊調査は終了しました。

今日ははじめての「臨店調査」です。調査を行うことを事前に連絡して臨店します。担当するのは特殊調査に行っていない職員です。

調査に出かける直前まで地方税法を読んでいると・・・
「仁ちゃん。税務調査のやり方は税法には書いてないよ。116条だけ覚えておきな」

地方税法第116条(※)は料理飲食税の質問検査権の規定です。
(※料理飲食税は消費税創設にともなって廃止されたので、今は別な条文になっています)

調査先は「ラウンジバー キャット」です。店に入るとマスターの隣に税理士さんが座っていました。国税OBの国是元(こくぜいはじめ)税理士です。

「調査を始める前に、どういう法的権限で調査に来たのか言ってください!」
県職員が税の専門職でないことを見透かした先制攻撃です。

「地方税法第116条質問検査権による調査です!」
カウンターが決まり、国是税理士が口ごもります。(ちょ~気持ちいい 笑)

提示された伝票の束。実際より過少な申告と辻褄(つじつま)をあわせるために、特殊調査で飲食した伝票も抜き取られていました。(書き換えられていることもあります)
この指摘は過小申告を否認していたマスターも認めざるをえません。

「私はマスターから預かった伝票を集計して申告書を作成しているだけだから・・・」
少し気まずい空気が流れました。

持ち帰った伝票等の提出資料を精査し、仕入先の反面調査等を行って、本来申告すべき税額を確定します。

後日、調査結果を申し渡し、更正通知書を送りました。

「はじめての税務調査」 完了です!  (終)

(この連載は100%の事実によるフィクションです。実在する団体、人物とは関係ありません)

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